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大通りから路地に入ろうとした時、太陽がもうとっくに隠れている事に気付いた。
きらびやかな大通りの光に比べて、路地裏の街灯のなんと頼りない事か。
大通りとは別世界の様な路地に足を踏み入れ、地図の場所へ向かう。
辿り着くとそこは、先ほどのビルの近くの、これまた古そうなアパートだった。
よく見ると矢印が少しズレており、アパートの裏側を示している。
頼りない街灯を頼りに裏へ回ると小さな庭があり、その真ん中に大きな段ボールが敷いてあった。
長さは180cm、幅は80cmくらいだろうか。
その段ボールには大きくマジックで『ココ』と書いてあり、隣の太い矢印がアパート側を指していた。
気味の悪い段ボールを避けて矢印の先の部屋の窓に近づく。
カーテンの隙間から明かりが漏れている。
コンコンと、恐る恐る窓をノックしてみるが反応はない。
声をかけるのは躊躇った。
耳を近づけながら、もう一度ノックしてみる。
「……誰もいない?玄関に回った方が良いのかな?」
ハッと気づいた。
矢印は部屋ではなく、段ボールのふちを指しているのでは?
段ボールをめくれと言う事なのでは?
「じゃあ、ここは関係ない家?」
やっぱり声をかけなくてよかった。
振り向いて、地面に敷いてある段ボールを見る。
この下に私のスマホがあるの?
でもそれなら、こんな大きさいる?
段ボールに手を伸ばす。
これでやっと帰れる。
ふいに段ボールが浮き上がり、地下から伸びた手がガシっと腕を掴んだ。
段ボールを押し上げながら、むくりと人影が迫り出してくる。
「ひィィィィッッ」恐怖で悲鳴も出なかった。
地面から湧き出た男が口を開いた。
「ひ、ひ、ひめ……姫。お、お、お、おうじ、王子」
息を荒げながら空いた方の手で自分を指差している。
「ぼうけん。うふふ。楽しかった?」
何も答えられない。呆気に取られて何も考えられない。
「き、き、キス……へへ。王子に、キス。フッ、フッ」
にゅうっと唇が伸びる。
「いやあぁぁぁぁぁ!!」
気持ち悪さが恐怖を凌駕した。
自由な手で思い切り平手打ちをして、顔が近づくのを阻止する。
掴まれた手が離れた。
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