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人を殺すのに必要なのはなんだと思う?
とあるレストランに、不釣り合いなカップルがいた。
ちょっと高級そうなそのレストランと不釣り合いなのではなく、その二人が不釣り合いなのだ。
女の方は、ふわりとした栗色の髪にくりっとした大きな目、細めの身体に可愛い服が良く似合っており、その笑顔はチョコレートのように甘い。
一方、男の方はというと、太った体をよれよれのチェック柄のシャツとジーパンで無理やり包み、薄汚れたスニーカー、くねくねしたクセ毛をワックスでピッタリと伸ばしている。
男は女にかなり高級そうなバッグを差し出した。
「ありがとう。このバッグ欲しかったんだ」
「前に欲しいって言ってたでしょ?ちょっと無理して買ったんだ」
女のとろけるような笑顔に、緊張に歪んでいた男の顔が弛む。
「覚えていてくれたんだ。ありがとう。好きー」
「あはは……」
弛んだ顔にまた緊張が戻り、頭をがりがりと掻きながら
「この前……。明美ちゃんが別の男と一緒に歩いているのを見た人がいるって……」
と意を決して不安の原因を突きつけた。
「ふーん。そうなんだ」
明美の笑顔は崩れない。
「その男って、あの……」
「友達だよ」
「でも、その人が言うには腕を組んで歩いてたって」
「歩くよ。晴彦くんともそうでしょ?」
小首を傾げて不思議そうに返す。
「え?でも、俺たち付き合ってるんだよね?」
「は?なんで晴彦くんと?キモーい」
身を引いて、今までとは違う種類の笑みを浮かべる。
「……え?」
「付き合うとかキモいんですけど。意味わかんない」
消えた笑顔と無情な言葉に晴彦は蒼白になる。
「でも、好きって。だから色々買ってあげて……」
「はあ?物を買い与えて彼氏気取り?サイテー!」
「そ、そんな……。違うよ」
「晴彦くんがくれるって言うから貰って上げたんだよ。なに?お金で私を買ったつもりだったの?」
「違う。絶対に違うよ」
「そういう事でしょ?だってプレゼントしたって理由で彼氏のつもりだったんだから」
「プレゼントしたから彼氏ってわけじゃなくて…。だって、好きって何度も言ってくれて……」
「お礼で言っただけでしょ。普通言うよね?物を貰ってお礼も言わないなんてサイテーじゃない?」
「う、うん。そうだけど」
「なら謝って。私に嫌な思いをさせた事。謝って」
太った体を悲しいほど震わせて、晴彦は声を絞り出した。
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