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「……ごめん」
「言葉だけじゃ本当かどうか分からないよ。私悲しい。どうして私がこんな思いをしなくちゃいけないの……」
子供のように猫手で目を隠してうえーんと泣き始める。
「ご、ごめん。俺が悪かったよ。どうすれば良い?」
「涙でお洋服が汚れちゃったよ。どうしよう?」
「……でも。もうお金がないんだ。明美ちゃんへのプレゼントで全部使っちゃったよ」
すっと上がった目線を辿ると、その先には消費者金融の看板があった。
「あ、あそこで……?」
「わかんない。私わかんない」
首をぶんぶんと振った後、上目遣いで口を尖らせた。
「……俺、借りるよ。借りて新しい服をプレゼントする」
「そう?ありがと」
すっと伝票を晴彦に押し出して、甘い笑顔で立ち上がる。
「あ、これから……」
「ごめんねー。今から家に親戚の叔父さんが来るから帰らなくちゃ」
「お、叔父さん……?」
「うん。じゃ、ご利用は計画的にね。バイバーイ」
「でも……。これから……」
晴彦は独り呟きながら、振り返りもせずに去って行く明美の後姿を見つめていた。
「人を殺すのに必要なのって、何だと思います?」
突然の物騒な言葉に振り返ると、黒いコートに黒い帽子をかぶった男が背中合わせに座っていた。
ゆっくり振り向く男の目は、帽子の影に隠れてよく見えない。
その言葉と雰囲気にたじろぎ、逃げるように前を向いてコーヒーを啜ると
「そちら、宜しいですか?」
と更に声をかけられる。
「あ、はあ」
傷心と混乱で中途半端に返事をするのが精一杯だ。
男は立ち上がり、するりと移動して対面に座る。
「さっきの質問」
「え?」
「人を殺すのに必要なのは何だと思います?」
「はあ。銃とかナイフとかですか?」
「ふふ、なるほど。貴方は純粋な人ですね」
「え……そうですか?」
恥ずかしそうに頭を掻く。
「さっきの会話、聞いてしまいました。貴方はあの女性が憎くはないのですか?」
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