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「明美ちゃんをですか?まさか。俺、彼女が好きなんです」
「こんな事を言っては失礼かと思いますが、彼女の方はそうではないのでは?」
「いや……でも、でも……嫌われてはいないと思うから……その、好意は持ってくれているかと」
「笑顔で接してくれるから?」
「はい。嫌いな人には笑顔にならないですよね?本当に嬉しそうに笑うんです」
さきほどの笑顔を思い出して顔を弛ませる。
「あの笑顔の為なら、俺はどうなっても良いんです」
「彼女を愛している?」
「え?あ……はい!」
唐突な言葉に戸惑う様子を見せたが、その返事はさっきまでとは違う強いものだった。
「近い将来、彼女は災難に遭うでしょう。その時、貴方の愛が彼女を射貫くかもしれない」
男は晴彦の伝票を持って席を立ち、持った手をすっと上げて去って行った。
「俺の愛が……?」
晴彦は訳の分からぬまま、男の黒い後姿を見送った。
レストランを出た明美は、歩きながらスマホを取り出して友美にメッセージを送る。
『終わったよ』
数秒も経たないうちに返事が来る。
大学の講義中のはずなのに、そんなに楽しみに待ってたんだ。
『ウザいことになっちゃったねー。どう?怒ってた?』
なにがウザいよ。どうせあんたが告げ口したんでしょ。
『ぜんぜん怒ってなかったよ。今度、借金させて服買わせる約束した』
返事が来ない。
フフフ、あんたの思い通りにならなくてごめんねー。
道端で10円玉を拾っているスーツのオジサンが目に入る。
10円くらい落としても拾うようなさもしい人間にはなりたくないわ。
さ、気分も良いし、これからゆっくり服を選ぼうかな。
お気に入りのブランド店に着き、店に入ろうとした所でさっきの返事が届く。
『どんな魔法を使ったの?』
顔だよ。そもそもあんたとは顔が違うの。
『別に、普通にお願いしただけだよ』
『そーなんだー。でもやり過ぎてストーカーされないように気をつけなよ』
プッ、その程度の嫌味しか言えないの?
返事は書かずスマホをバッグにしまい、ゆっくりと晴彦に買わせる服を吟味して行った。
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