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「何だ? これ」
リクが抱えているものが理解できず、玉城は妙に甲高い声を出した。
「いや、僕に聞かれても……。ここに来たらドアの前にあったんだ」
リクは玉城の反応が面白かったのかほんの少し笑うと、そっとベビーカーを下に置いた。
人間の赤ちゃんが乗ると潰れてしまいそうな、膝くらいまでの小さなベビーカーだった。
「くだらないイタズラだな。誰だよ」
玉城は呆れたように卵を覗き込む
「卵は本物かな。ウズラの卵みたいだ」
「先輩、ウズラの女の子に知り合いは?」
後ろから覗き込むように多恵が割り込んできた。
「アホか。どこの世界にウズラと付き合う人間がいるんだよ」
「だって、鳥の取材してるくらいだし」
「わーーーっ!!」
慌てて多恵の言葉をかき消した。
リクの事だと知らないのだから仕方ないが、多恵のタイミングの悪さを玉城は呪った。
何も気が付いていない様子のリクに、とりあえず玉城はほっとする。
まだ取材は終了した訳ではない。変に気を損なわれては面倒だった。
「でも、これって何かに似てるわね」
多恵がいつの間にか玉城のサンダルを勝手に履き、初対面のリクの横に来てしゃがみ込んでいる。
「ほら、鳥がさ、自分の卵を育てるのが面倒で、他の鳥の巣に卵産み付けて育てて貰うヤツ」
多恵はワザと屈託のない表情を作ってリクを見上げた。
何の紹介もしていないのに、この馴れ馴れしさは何なんだ、と玉城は呆れ、同時にその積極性が少し羨ましくもなった。
けれど多恵が吸い付けられるのも仕方がない。男の玉城から見てもリクの容姿はつい見惚れてしまうほど魅力的だった。
自称面食いの多恵が躊躇するはずもない。
「ああ、托卵?」
リクは多恵を見て言った。
「そう! それ。托卵」
「似てるかな。カッコウはこっそり産んで逃げていくんだ。お願いしますっていうほど礼儀正しくないと思う」
愛想もクソもない上にズレた返答なのに多恵の目はキラキラしたままだ。
「そっか。どこまでも酷い奴なのね? カッコウは。自己中過ぎるわよ」
「そうだね」
リクはクスリと笑う。
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