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「他の鳥に子育て押しつけて自分は楽しようなんて、鳥の風上にも置けないわよ」
リクが話に乗ってくれたのが嬉しいのか、多恵は更にテンションを上げる。
「そうとも言えないよ」
「え?」
「カッコウは他の鳥よりも体温が低いんだ。卵が自分の力で育たない確率が高い。だから種の保存のために、体温の高い鳥に自分の卵を温めて孵してもらう……っていう説もあるみたい」
「へえーー! そうなの? そうかあ、それなら仕方ないのかもね。なんだか同情しちゃう」
自分はどっから会話に混ざろうか。
ほんの少し出遅れた感を覚えながら玉城は三和土に突っ立っていた。
それにしても今日のリクは饒舌だ。こんなに素直に会話をする奴だっただろうか。
玉城は違和感を覚えながらじっとリクを見た。
「ところで、本当に誰の仕業かしらね」
多恵が小さなベビーカーを両手で持ち、立ち上がった。
「これってきっと、子供のオモチャのベビーカーよね。人形を乗せて遊ぶやつ。子供のいる家があるのかしら」
「小さな子供がいるのはこの階では左端の佐々木さんとこだけだ」
玉城が何とか会話に滑り込む。
「でも、佐々木さんは人んちの前にオモチャを置き去りにする人じゃないんだけどな。きっちりした人だから」
「私が来たときには何も無かったわよ?」
「そりゃ朝の5時だもん。真っ暗だし暴風だし。卵も産み辛いよ」
「しつこいなあ、先輩」
多恵はプッと子供のように唇を突き出す。
「ああ、風か」
ふいにリクが小さく呟いた。
そして通路の天井を見上げたまま、ゆっくり佐々木さんの部屋の方へ歩き出した。
「え? なになに?」
弾んだ声を出して多恵がリクを追う。
多恵の気色ばんだ恋する女子高生のような表情に苦笑しながら、玉城もサンダルを引っかけて二人のあとに続いた。
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