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その年の春、俺は目黒川の河川敷に来ていた。
川の両岸に咲く桜は、惜しげもなく咲き乱れ、散った花弁は川の流れに絨毯のように拡がっている。
賑やかな活気ある雰囲気の中を、俺は独りで歩いていた。「一緒に行こう」と約束した彼女は、春を待たずに旅立ってしまったのだ。
先輩が見付けたという血縁者らしい人は、残念ながら間違いだった。その後も調査は続けてくれたのだが、彼女の命がつきる方が早かったのだ。
「ほら、今年も綺麗に咲いてるよ」
俺は空に向かって呟いた。
彼女も今頃は、この桜を天から見下ろしていることだろう。
「あのカフェにも行ってみる? 君の好きだったケーキ、俺も食べてみようかな?」
去年と同じようにはいかないけど、それでも、この桜を君と楽しみたいから――。
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