ベランダ

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 消防車と救急車、それにパトカーのサイレンが閑静な住宅街にけたたましく鳴り響いた。黄色と黒の縞模様のテープを張ったマンション出入り口。  いつも人通りの少ない歩道や道路には、近所の住人たちであろう人だかりができていた。動画を撮ろうと携帯を向けている人間もチラホラと見える。  マンションの住人たちはヒソヒソと声を潜め、ブルーシートで覆われた現場を見下ろしさえずりあっていた。 「可哀想ね。受験ノイローゼでお父さんを刺して、お母さんをベランダから突き落としたあと、自分も発作的に飛び降りたみたいよ?」 「あー……。そういえば、先週もあったわよね? 大学受験してる子がベランダから飛び降りちゃったの。あれはあんまり大騒ぎにならなかったのに」 「そりゃあ、一家で死んじゃったら騒ぎになるわよぉ」 「なんかこの時期多いわね。去年もあった記憶が……」 「ねぇねぇ。発見者は管理人さんだって。廊下を掃除していたら玄関から血が外へ流れ出ていたそうよぉ。管理人さんが警察に話してたわ」 「うわ。管理人さんもお気の毒ねぇ。六階のご家族でしょ? 仲良し親子だったわよね? そんな風に見えなかったのに……」  そこへまた住人がやってきて、チョンチョンと輪の中へ加わった。 「違うわよ。あれ、管理人さんがやったのよ。私見てたもん。女の子も突き落とされたのよ。怖かったわー」 「えっ? そうなの? なんで?」 「わかんない。そんなの分かるわけないでしょー! ベランダから見てただけだもん!」  シジュウカラたちは枝に止まったまま、葉っぱの隙間から現場を見下ろした。  警察官にペコリと頭を下げた管理人がトボトボと力なく歩いて立ち止まり、マンションの敷地内にある大きなクスノキを仰ぎ見て、唇の端だけでニヤリと笑った。  鳥たちはゾッとして口をつぐみ顔を見合わせ、枝から一斉に飛び立った。 完
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