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というのも変わり者と有名な王太子だが、仕事は優秀でいかんなくその手腕を発揮しているため評価は高い。そのため、彼の目利きに信頼を置いている者も多く、庶民を妻にというのも先進的な決断として受け入れる者が多かったのである。
これは思いがけず嬉しい誤算であった。
しかし、そんなニュースを快く思わなかったのはハーディアからやってきたジーナ姫である。
「…王太子とソフィアさんが結婚ですってぇ!?」
噂を聞きつけたジーナはわなわなと震えた。
確かにソフィアが妃候補だというのは聞いていたが、まさかこんなに早く結婚するとは夢にも思っていなかったからだ。だってソフィアはまだまだ淑女には程遠く、王太子の妻としては時期尚早だと思えたからだ。
しかし結婚するとなれば焦りを覚えずにはいられなかった。
ジーナは王太子を振り向かせるために相変わらずあの手この手を使って迫ってはいたものの、まったく手ごたえは感じられず今日に至ってしまった。邪魔者のソフィアを消す作戦も失敗に終わってしまったし八方ふさがりで打つ手なしだ。このままではハーディアから来た意味がなくなってしまうし、叔母の脅しも気がかりだった。
困ったジーナは助言を仰ごうと叔母であるイリーナの部屋へと飛び込んだ。
「叔母様!聞きまして!?」
「あら、ジーナ。どうしたの?そんなに慌てて」
慌てて飛び込んできた姪に彼女はわずかに表情を凍らせた。
口調も穏やかだが、どこか冷ややかに感じる。
「噂で聞いたのですが…王太子が結婚するらしいですの」
「セラフィーノの結婚話ならもちろん聞きましたよ。お相手はあなたではなくて、例の庶民だそうね。議会が承認したわ」
「そうなんです!」
「あなたったら…あんなに意気込んでいたのに結局、庶民の娘から奪い取ることもできなかったの。わたくしの姪っ子なのにがっかりだわ」
そういって彼女が向けた冷たい視線にジーナの背筋は凍った。
「それは…」
「言ったでしょう?何が何でもモノにしなさいと。それができないのならお前をハーディアから呼んだ意味がないじゃない」
「でも叔母様、あたくしだっていろいろ手は尽くしたんですのよ?でもどうにもガードが固くって…」
「言い訳なんか聞きたくないわ!」
「あたくしだってこのまま引き下がるのは嫌ですわ。ねぇ、叔母様。何かいい手はないかしら?」
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