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水の音が止まる。じっと見られているのはわかっていたけれど、かたくなにタカノブのほうには視線を向けなかった。見透かされたくなかったのかもしれない。
「そうか」
タカノブらしいあっさりとした返事だった。
「おまえが決めたなら、よかったな」
「うん。でもまだそーすけには言ってないんだ。でも絶対に近いうちに俺から言うから、まだ黙っててほしい」
「いいけど。早いうちに言えよ。ちゃんと期限区切ってな」
「うん」
だから、できるだけ俺もあっさりとした調子を保ったまま続けた。
「それで、それまでのあいだ俺をここに置いてほしい」
「宗太、それは……」
「お願い」
握りしめた手の甲を見つめたまま、俺は言い切った。たぶん、あの夜。タカノブと公園で話したときから、この部屋に置いてほしいと頼んだときから、ずっと頭の片隅にあったことだった。
俺は、もうあそこには戻れない。
「タカノブさ、前に言ったよね。ちゃんと考えろって」
「それは、まぁ、言ったけどな」
「考えたんだ。俺、そーすけを失望させたくないし傷つけたくない」
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