愛を乞うひと《前編》

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兄貴の葬儀の後、気が付けば俺はそうくんを引き取ってしまっていた。 俺が一人で住んでいた6畳一間の夢見荘は、決して広いとは言えないけれど、まだ5歳のそうくんが一人増えたところで生活に支障をきたすほどじゃない。 まぁ、なんと言うかレトロなアパートではあるから、そうくんが走り回ったり大泣きした日には下の階の住人に文句を言われそうで心配してはいたのだけれど、今のところそれも大丈夫そうだった。 もしかしたらそうくんは、父親が死んだと分かっていないのかもしれない。 俺のもとに来てからそろそろ2週間が経つわけだけど、そうくんは、泣くことも暴れることもなく、いたって穏やかに緩やかに日常を消化し続けている。 「って言ってもさ、その方が不健康じゃねぇの。俺だって子育てしたことあるわけじゃないから、よく知らねぇけど」 ここ最近の習慣になってしまった子育て相談を終えた俺に、孝信は小難しい顔で首を傾げた。まぁそうなんだよねぇ、と俺も眉間に皺が寄る。 5歳の子どもと言うものがどういったものなのか、今一つよく分かってはいない俺だけれども、ちょっと動揺しなさすぎじゃないかと思ってもいる。 そうかと言って、大泣きされても困るんだけどねぇ。 物心ついたころから一緒に育っている孝信は幼馴染みみたいな存在だ。26になった今も、当たり前の様な距離感で俺の隣に存在してくれている。 今日も仕事の帰りにふらりと俺を迎えに来てくれた孝信を伴って、そうくんを預けていた保育園に向かう。住んでいる場所が夢見荘の204号室と205号室とお隣さんなので、帰る場所は一緒だ。
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