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「そうくんは、大きくなったらなにになるんだろうねぇ」
優しいを通り越して慈愛としか表現のできないほほえみを浮かべたそーすけが言った。そのとき俺は夜ご飯を食べ終わって、早々に隣の家に帰っていったタカノブを見送って、そーすけと一緒に片づけも終えて、きれいにした机で宿題のプリントをしているところだった。小学校の低学年だったころのこと。
「大きくなったら?」
「そう。大きくなったら。なにになりたいのかなぁって。このあいだの授業参観のとき、みんな発表してたでしょ。そうくんはまだ考え中だって言ってたでしょ。だから」
にこにこと告げられて、「うん」と曖昧に頷く。言った。たしかに言った。
正確には、担任の先生に「ねぇ、なにかなりたいものないかなぁ。サッカー選手とかどう? それかコックさんとかは? お父さんもコックさんなんだよね」などと必死に人気の職業やそーすけを絡めた職業を勧められたものの、最後まで俺が納得しなかったがために「考え中」でお茶を濁すことになったのだが。
そんなことは言う必要はないとこのときの俺はすでに知っていた。そーすけに余計な心配をかけさせてもいいことはなにもない。だからできるだけいい子でいよう。そう思うようになっていた。
それなのに、なぜか先生の言う提案に俺は素直に乗れなかったのだ。今思うと、拗ねていたのかもしれない。
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