右半身の空白

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ーーだって、俺は、ずっとそーすけといたいだけだし。 ただ俺のかわいくなかったところは、この年にしてそう思う自分がふつうではないということも理解してしまっていて、本音を決して口にはしなかったことだ。それでいて上っ面のいいことも言えなくて沈黙を選んだところ。 プラスして、俺はちょっとかわいそうな境遇の子どもだということも、小学校に入ったあたりから知るようになって、そうして腫物を触るように扱ってくる教師を舐めてもいたのだ。 本当に、妙に擦れていてかわいくない子どもだったと思う。そーすけは、「そうくんは世界で一番かわいい」と言って憚らなかったけれど。 「そーすけは」 「ん? なに?」 「どうして、コックさんになったの?」  そーすけが料理をすることを仕事としていることは知っていた。タカノブに連れられてそーすけが働いている店に食べに行ったこともある。 人のよさそうなおじさんがメインシェフをしている洋食屋さんで、家でそーすけがつくってくれているものとはちょっと味が違ったけど、それでもおいしかった。 「きみがそうくんか」と笑ってお店の人が出迎えてくれたこともうれしくて、特別だよと言ってもらったプリンもおいしかった。そういうやさしい場所でそーすけが仕事をしていることにほっともした。 でも、なんでそうやって働いているのかは知らなかった。俺がここに来たときから、そーすけはそうだったから。
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