愛を乞うひと《前編》

8/8
551人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
俺の腕の中から短い手を精いっぱい伸ばして孝信に愛の鉄拳を加えているそうくんに、「よしもっとやれ」と発破をかける。「勘弁してよ」と情けない孝信の声が聞こえてきて、俺はちょっと溜飲を下げた。 「あー、もうほんとこいつ隼人くんの子どもだよ。隼人くんも俺が宗佑苛めてたら、あとからねっちりした嫌がらせしてきたもん」 「……兄貴が?」 そうくんに、ぱしぱしやられた腕を擦りながら不貞腐れている孝信の台詞が意外すぎて、俺は思わず聞き返してしまっていた。 ――あの人畜無害な兄貴が嫌がらせ? たぶんそんな思いが顔に出ていたのだろう。これだよと孝信が呆れた顔をする。 「隼人くん基本的に優しいんだけどさぁ、宗佑のことに関しちゃ結構性格悪かったって。3つも年上だったくせに大人げねぇって俺何回思ったことか。まぁ宗佑も宗佑で隼人くんにべったりだったしなんだかなぁだったけどさ」 「へぇ……」 「そうくんも宗佑、好きそうだもんなぁ?」 さっきの仕返しみたいに、わざわざそうくんの顔を覗き込んで言った孝信に、そうくんはかすかにむっとした顔をした。 「……そーすけは、俺の」 ぎゅうっと皺になりそうなくらい上着を掴みながら、そうくんが放った爆弾に、孝信はこれでもかっていうくらいの大爆笑をしてくれたのだけれども。 俺はと言えば、可愛いじゃないかとほほえましく思ったのだけれど。その同じ心で、ほんの少し、けれど確かに、胸が痛んだ。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!