第1章 僕と君。

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僕は世界で一番幸せ者だ。 その理由は僕を知る大体の人間が僕を指してそういうからだ。 僕の友人、生徒、さらには親までもが言うのだ。それならば幸せだと自ら言うのも悪くないだろう。 「僕は世界で一番の幸せ者だ」 そう呟く。そうすると隣では君がケラケラと笑う。 それはどんな生き物よりも美しいのだ。 笑うというのは人間特有な表現だ。目が細くなり口角がこれでもかと上がるそして手が口にかかる。 君はそれはおかしいという。 「学者さんがそんなこといっていいの?断言ってしちゃうと大変でしょ」 目の前のコーヒーカップに君は手を戻しながら笑う。 「断言して幸せな苦労をしたいんだよ」 茶化して僕も笑う。 彼女とはとても偶然としか言いようがない出会い方をした。 あの時僕はカフェとはとてもいえない喫茶店で締切と時間に追われていた。 よく使われる表現で表すとパソコンとにらめっこだ。 コーヒーを永遠とおかわりする。ああでもないこうでもないと文章を書き進める。 この論文が出れば、僕はまたとないチャンスをつかめる。 そう思うと苦には感じなかった。 そんな時に彼女がコーヒーを持って現れた。 「すいません、いきなり少しいいですか?」 そういうと僕のまえに座った。 僕は一瞬で感じた。彼女は変な人だ。 ウェイトレスが目の前に座ったのだ。 周りを見渡した。誰も客がいない。 暇つぶしでも付き合えと言うのか。と思いながらも手を止めて僕は答える。 「なんですか?」 彼女の顔を見ると少しにこやかだ。 「溜まりましたよ」 僕は多分これからどんなにすごい発見をしてもこんな顔をしないだろうと思う驚いた表情をした。 いや、正直覚えてはいないが彼女が前に言っていたからそうだろう。 「ポイントカードです」 彼女は楽しげにスタンプの押されたカードを開いた。 「ほら、20個おされてるでしょ。貯まりましたよ。ポイント」 そういうと僕にカードを渡してくる。 渡されたカードにはしっかりとスタンプが押してある。 「これで20杯目です。そんなにコーヒーを飲むと体壊しますよ」 そう言われて僕は思わず笑ってしまう。 「喫茶店のウェイトレスがそんな事言ってもいいの?」 なんとなくこの人と会話してみたいと思ってしまう。 「いいんですよ。だって、また明日も来てくれるでしょう?」 彼女は素直な笑顔で言った。 「そうだね。これが終わるまでは来るよ」 机の上でぐちゃぐちゃになった資料とパソコンを指さしていった。
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