手遅れになるまで

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「お願いだから手でしてください」 最低だ。 前々からバカだバカだと思ってはいたが、童貞をこじらせすぎてとうとう頭のネジが十個くらい緩んでしまったらしい。 とんでもないクズ発言をしながら、三つ指ついて土下座している目の前のバカが自分の弟であることが心底から情けない。 「にーちゃん、してくんなきゃオレそろそろ死んじゃうと思う。 ほんとにもうさ、誰かとエロいことしてみたくて、そのことばっか考えてどうにかなりそうなんだよ」 「どうにかなるって言うなら、おまえとっくにどうにかなってるから安心しろよ」 どうしようもないバカであるところの俺の弟、夏樹は俺の言葉を聞いてゆっくり顔を上げた。 「にーちゃん、しかいないんだよ…。こんなこと頼めるの」 「………」 半開きのくちびるがちょっと震えている。縋るように俺を見るその目は、夏樹が17になった今も、子どものころから何も変わっていなかった。 本当に、図体ばっかり大きくなりやがって。ちょっとは兄ちゃんの気持ちも考えてくれ。 思えば昔から俺はなんだかんだで夏樹のこの顔に弱い。 「にーちゃん、そのプリン一口ちょうだい」 「お母さんにごめんなさいって言うの、こわい。一緒に謝って」 「夏休みの宿題が終わらない、にーちゃん手伝って」 いかにも困り果てた顔で、まさに寄る辺のない子どものように、夏樹は俺にそんな調子ですがりついてくる弟だった。 俺も俺で、5つ年の離れた弟のことをなんだか放ってもおけず、文句を言いながら世話を焼いてやる。 両親や周りからは仲の良い兄弟だと言われて育ってきた。 でも、仲が良いって言ったって、 いくらなんでも夏樹の今の様子は異常だ。兄貴に手でしてくれなんて頼むやつがあるか。
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