手遅れになるまで

3/13
前へ
/11ページ
次へ
夏樹が思春期を迎えて、やがて高校に入ると、周りに彼女ができた友人がいたりするらしく、 どうもそこから色々と話を聞いたり、やらしいDVDなどを借りたりしているうちに、 「ダメかな、手!手でしてくれるだけでいいんだよ、ホントに!」 このようなダメ人間が出来上がってしまったわけだ。 夏樹は土下座の体勢から膝を擦って、若干俺の方ににじり寄ってくる。俺は若干後ずさる。 なんなんだ、この妙な気迫は。 「あのな、夏樹。そういうのはまず真面目に彼女を作る努力をしてから…」 「したよ」 俺の言葉を最後まで聞かずに、夏樹はフイッと視線をそらした。 「好きな子がいたんだ。…先週告白したら、フラれた」 「……」 拗ねるとすぐそっぽを向いてぶすっとする。いい年をしてめんどくさいやつである。 「それで俺に手でしろって?」 「…ごめん。メチャクチャなこと言ってんの、わかってるんだけど。なんかもう、だれかにさわってほしくて、オレバカだから、なんでこんなんなるのかよくわかんないけど…」 要は傷心でどうにもならないくらい人肌恋しいということだろうか。 夏樹は立ち上がって、悲壮な顔をしながら俺の手首をぐっと掴んだ。俺の後ろには夏樹が使っているベッドがある。これはまずい。非常にまずい。 「にーちゃん」 「そんなの、やらないに決まってるだろ!ひとりでーーー」 やってろ、と言おうとして言えなくなる。夏樹は俺の胸のあたりに額を押し付けて、うなだれた。 たのむよ、と言った小さな声は、少しだけ湿度の高いものに聞こえた。 「…泣くなよ、バカ…」 「透(とおる)…にーちゃん、たのむ…から」 情けないやらかわいそうやらで、こっちまで混乱してくる。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加