手遅れになるまで

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腰のところに、ベッドの硬い感触がある。俺より一回り大きな弟の身体と、背後のベッドに俺の身体は挟まれてしまっていて、身動きがとれない。 普段はあっけらかんとしている夏樹の、ここまで思い詰めた姿を本当に久々に見た。 なにか俺には言えない事情でもあって、こんな風になっているのか…? だとしたら、兄として無下に扱うわけにもいかない。ひょっとしたら、弟の人格形成に関わってくる問題かもしれないのである。ここは慎重にならなければいけない。 「…………」 ぐるぐると考えていると、夏樹は沈黙がじれったいのか、黙って俺の胸に頬をすり寄せてきた。 うなだれたまま、猫のような仕草で、夏樹は俺の答えを急かす。 力なく握られた手首から、夏樹の体温が伝わってきた。俺よりも少し高い平熱。 後になって思えば、完全に若気の至りと言うしかない。 行き場のない欲求を持て余し続けて、ここまで不安定になっている弟をほうっておけなかった。 間違っているとわかってながらも、俺は夏樹の肩に手を置いた。 「…一回だけだ」 ぐりぐりと俺の襟元に頬を押し付けるのをやめて、夏樹が顔を上げる。垂れ目気味の目に、いまは戸惑いがあらわれていた。 「にーちゃん、いいの」 「…いいも何もない。ほっといたらお前何するかわからないし」 「……うぇへへ、へ」 変な笑い声を上げつつ、夏樹はにへらと相好を崩した。 この笑顔にも、俺はやはり弱い。それだけでもう、憎まれ口のひとつさえ叩けなくなってしまう。 こいつはバカだが、かわいいやつなのだ。 夏樹は、手首を握っていたてのひらをずらし、そっと俺の手を握ってきた。 応えるべきかどうか悩んで、ほんのちょっとだけ指に力をこめる。 してはいけないことをするための共犯関係が、結ばれてしまった。
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