手遅れになるまで

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やると決めたはいいものの、どうしたものか。 「やってるとき俺の顔見えると萎えるだろ」 「…え、どうなんだろう。わかんねえ」 俺としては、顔は見えない状態の方がいいのではないかと思った。他人とふれあうのが初めての夏樹の今後のために、この体験を極力特別ではないものにしてやりたかった。 自慰行為の延長、の範疇に収まるように。 結局、ベッドに腰掛けた夏樹の後ろに回って、俺が視界に入らないようにして触ってやることにした。 それから、これでも見てろ、と言って俺の秘蔵のお気に入りアダルト雑誌を特別に与えた。 彼が緊張しているのが見ていてわかるし、俺も変に緊張していた。 いつものオナニーの、延長だと思え、と自分に言い聞かせる。 これは特別な行為ではない。そうも言い聞かせる。 「お、おねがいします」 「…ん」 夏樹はベッドの上に雑誌を広げて置いて、履いているデニムのボタンを外した。 俺はその背中から手を回して、ジッパーを下ろす。夏樹の手が指先に触れる。 「おまえ、手ひっこめてて。俺がやるから」 「わ、わかった!」 トランクスの中に手を入れる。そこにあるかたちに指がふれる前に、はっと気付いてしまった。 夏樹のあたたかい背中に顔を密着させているために、そこから早鐘のようにひっきりなしに暴れる鼓動の音が聞こえることに。 …夏樹、興奮してる。 途端に、自分の耳と頬がかっと熱を帯びるのがわかった。いけない。落ち着け。なんでもない。 こんなのは、なんでもないことだ。ただのおふざけのようなもの。
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