手遅れになるまで

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早く終わらせないと、俺もみっともないことになりそうで嫌だった。密着した状態では、身体が反応すればすぐに夏樹にバレてしまう。兄の矜持を守るためにもそれだけは避けたい。 「………」 早く終わらせよう。そう思って、腰に回した腕から先に神経を集中させる。 親指で、さきっぽからあふれる液体を掬うと、少しずつ手のひらとそれとの間にぬめりが行き渡ってくる。 痛みを感じさせないように、やわらかく塗り広げていく。夏樹のもつ熱と、俺の手のひらの温度が同じになっていく。 そのまま、様子をうかがいながらしばらくゆるく手を動かしていると、夏樹は苦しさをかみ殺すような吐息を小さく漏らした。 「……っ、ふ……」 そして、どうしたらいいのかわからない、とでもいうように身じろぎをして、背後の俺に身体を押し付けるようにしてくる。 むずかる子どものような振る舞いをするのに、快感のなかで弟がみせる、今まで見たことのない姿に俺の頭は徐々に熱で浮かされてくる。 夏樹は今きっと、はじめて自分以外の人間にそこに触れられて、羞恥とか気持ち良さとか、そういったものがないまぜになっているのだろう。 後ろにいる俺からは、夏樹の表情はうかがい知れない。 ……自分の指先が、触れ合う肌のぬくもりが。 こいつにどんな顔をさせているのか、見てみたくなる。 でも、今目を合わせてはいけない、となんとなく直感した。 仕方ないので、さっき夏樹がそうしたように、俺は目を閉じて、夏樹の背中に額をくっつける。何も見ない。終わるまで、夏樹と目を合わせてはいけない。 ごっこのつもりの戯れが、それ以外の何かに変わるようなことがあってはいけないのだ。
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