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別にいいけど、と笑いを含んだ声で言ってから、
「…にーちゃん、も、っと、つよくして…」
懇願するようにかすれた声でそうねだり、夏樹はからだをもっと近づけてくる。
「……ん」
ぽつりぽつりと、俺のされるがままになりながら、夏樹は今まで好きだった女の子のことを教えてくれた。
「…ちょっときつい感じの美人で…さ…」
「うん」
「クラスの、席が、斜め前……、っん、……なんだけど」
「うん」
すこしづつ、すこしづつ、追い詰めていく。
指先は完全に夏樹の肌のぬくもりと馴染んで、液体のぬめりが、そこだけ弟とひとつになっているような錯覚を俺に与えた。
「髪が、…っ…長くて…黒い……」
「…うん」
少しづつ高くなっていく声の調子から、そろそろ限界が来るかと思って少し動きを早くさせると、あろうことか、夏樹がこちらに振り向く気配がした。とっさに俺も顔を上げてしまう。
「おいばか…、なんで俺のほう見てるんだ」
「その子のこと、…もう思い出せないよ…にーちゃん」
切羽詰まった表情で、夏樹は俺の目をまっすぐに見た。
眉をひそめて、俺が与える刺激に耐えているように。
「にーちゃん、…にーちゃん、…ぁ…、もっとして…きもちいい……」
「………」
前に回した俺の腕に、夏樹の手が重なる。 服越しにも、強く爪を立てられているのがわかる。痛いほどに指に力をこめて、夏樹がなにかに耐えている。
キスをねだるような仕草で、顔を寄せられた。
キスなんて、してやれない。
してやれない?するつもりがない、ではなく?
ひどく混乱した。手が汚れてさえいなければ、夏樹の上気した頬に触れたいと無意識に思いながら、ただただ手を動かした。
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