彼女の本命

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彼女の本命

 バレンタインに、母親以外で初めてチョコをもらったのは小6の時。相手はクラスメイトの女子。  かなり男っぽい性格の奴で、よく喋ってたけど、それはむしろ男友達同士みたいな感覚で、こいつは女なんだと認識したことはなかった。  だからチョコをもらった時も、ああサンキュー程度。というか、女子の中で安い義理チョコを配り合うみたいなことが流行していて、その延長で、たくさんあるから男子にもあげると、お裾分けでもらったチョコだったから、お礼もその程度だった。  さてその翌年は、ありがたいことに、今度はもう少し大人数からチョコをもらえたけれど、やっぱりほとんどはお裾分けの義理だった。でも、その女子のだけは違っていた。  作りすぎて余った試作品。  俺は実験体か。  でもまあ、もらったチョコクッキーは美味かったから、食った翌日、もう少し丁重に礼を言った。  そうしたら翌年も、試作品という名の義理チョコをくれた。  今度はもう少しケーキっぽい品で、これもかなり美味かった。  小学生の時は案に男っぽかったのに…いや、今でも口調とか態度とかはかなり男っぽいのに、お菓子が作れるとか、意外だよな。  もらった品を食べながらそんなことを思う。その時に、ふと、違う考えが意識をよぎった。  これが試作品なら、本命はいったい誰に渡しているんだろう。  相変わらず、女子の間で友達同士でのチョコの贈り合いは盛んだけれど、こいつがみんなに渡していたのは手作りの品じゃなかった。  そこは市販品で賄って、お手製はあくまで本命のためのものってことか? だとしたら、試作品でも、このかなり美味いチョコ菓子を食える俺はラッキーなんだろう。でも、あくまでこれは『試作品』なんだよな。  そう思ったら、あんなに美味かったお菓子が突然味気なくなった。
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