彼女の本命

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 彼女の父親はケーキ店のパティシエなのだが、何しろ彼女自身は男っぽいからお菓子作りにはまるで興味がなかったらしい。でも、六年の時に、俺の義理チョコへの反応の薄さを見た後、もし手作りならどう反応してくれるのだろうと思ったそうだ。  そこから父親にあれこれ聞いて特訓し、めきめきお菓子作りの腕を上げたものの、ちょっとスパルタな父親は、お菓子を作った際は、まず俺の舌を唸らせてみろ。というようなことを口走り、以来彼女の中で、父親を認めさせられるお菓子が本命の品、という位置づけになったらしい。 「といっても、作り方とか分量とかは同じだから、味は変わらないんだけどねー」  そう言ってけらけら笑う彼女の様子が、俺にはたまらなく嬉しかった。  そうか、本命っていうのは、父親向けの品のことなんだ。そして、試作品でも、彼女の手作りのお菓子をバレンタインにもらえているのは俺だけなんだ。しかも今年は、本命の方をもらえるらしい。 「どしたの? なんかニヤニヤしてるよ?」 {だって、俺、本命もらえるんだろ? すっげぇ嬉しい」  そう言ったら、やっとこれまでのやりとりの意味に気づいたのか、彼女は突然真っ赤になった。そのまま小さく『バカ』と言って背を向ける。  それもこれも含めて、昔と違い、とても女の子女の子して見える彼女がたまらなく可愛かった。  あれから二ヶ月。  ホワイトデー当日には遅れなかったお返しを、一緒の高校に通えるようになった入学祝いと兼ねて彼女に贈り、俺達は、自分で言うのは照れくさいけど、初々しいカップルになって一緒に高校に通っている。 彼女の本命…完  
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