野次馬

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野次馬

 昔っから、野次馬根性は強い方だと自覚している。  救急車の音が近所で止まる。消防車が近づいてくる。そういうものに反応して家を飛び出し、原因を探してウロウロした。人だかりがあれば迷わず紛れ込み、側にいる人にあれこれと話を聞いた。  そういうことを続けている内に、似たようなことをしてる奴がいることに気がついた。  いつも帽子をかぶっている男で、俺が嗅ぎつけて来た事故現場や火事場には必ずそいつもいる。  でも俺と違って、そいつは周りに何かを聞いたりはしない。ただ、じっと現状を見つめているだけだ。  よく、テレビのドラマで言ってるよな。犯人は現場に戻るって。  交通事故とかはともかくとして、火事の場合、たいていは屋内からの失火だとしても、放火の可能性だって充分にある。  人のことは言えないけど、必ずこういう現場にいて、しかも、周りに話しかけたりはせず、ただじっと様子を窺っているだけの奴…もしかして、後ろ暗い部分があるんじゃないだろうか。  勝手に人様を疑うのはよくないことだと判っているが、それでも、一度そんなふうに思ってしまうと思考は止まらなくなった。その結果、俺は、とある火事場の野次馬の際、思い切ってその男に話しかけたのだ。 「…あんた、いつもこういう場にいるよな。俺も大概野次馬根性が強いけど、やっぱ、あんたもその口なのか?」 「いや、別に」  そっけない返答にピンとくるものがあった。  こいは俺とは違う。ただの野次馬根性で事故や火事の現場に来てる訳じゃない。  やっぱりこいつは俺の予想通り、自分が起こした犯罪の現場を見に来ている犯罪者なんじゃないだろうか。  そう思った瞬間、男がにやりと笑った。
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