第1章

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「王子様は、誰も見たことがない美しいお姫様が到着されたと聞いて、大急ぎで迎えに出ました。お姫様を連れて大広間に戻ると、会場はしんとなりました。みんな、お姫様の美しさに見惚(みと)れてしまったのです。この日のために、腕によりをかけてお洒落をした貴婦人たちも、サンドリヨンには敵いません。みんな、サンドリヨンの髪形やドレスを真似したいと、一生懸命観察したのです」  あっ、こうして流行が生まれるんだ。今も昔も、綺麗な人の真似をしたがるのは、女の性(さが)なのかもしれない。頭の片隅で、『サンドリヨン』とは離れたことを考えている内にも、話はどんどん進んでいく。 「王子様はお姫様をダンスに誘いました。お姫様がとても上品にダンスを踊ったので、人々はとても素敵な方だと感心しました。その後、素晴らしい御馳走(ごちそう)が運ばれてきましたが、王子様はまったく手をつけませんでした。お姫様にそれほど夢中だったのです」  美人に鼻の下伸ばしてと、小言を言われそうな状況だけれど、童話の世界だと不思議とそんなイメージは湧かない。  あくまで御伽噺(おとぎばなし)で、この世に存在するはずがない。だから、人々の手を止め、視線を釘付けにしてしまうお姫様がいても可笑しくないと、思ってしまうのだ。 「サンドリヨンは、姉たちの傍へ行って、王子様に貰ったオレンジやレモンをおすそ分けしてあげました。姉たちはびっくりしました。お姫様がサンドリヨンだと、まったく分からなかったのです。 こうして、お喋りをしていた時、サンドリヨンは時計が十一時四十五分を打つのを聞きました。すぐ、会場の人々にお辞儀をして、そこを離れたのです」  子供騙しの童話だとばかり思っていたのに、意外と面白い。それに、奥が深い。私の知っているシンデレラと『サンドリヨン』は同じような話かと思えば、こんなに違う。  私の知っているシンデレラは舞踏会まで行って姉たちの世話を焼いたりしない。美しいお姫様に変身するけど、舞踏会に来ていた人々を圧倒するような書き方はされていなかった。ただ、美しいとあった気がする。  新しい発見をする度、嬉しくて、わくわくする。子供に戻って宝探しでもしているような気分にさせられる。  遙人と会って、初めて知った『文学』の世界に、私は少しずつ惹かれているのかもしれない。
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