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言いたいのに言えない。
そんな俺を聖護は追い立てずに濡れた目尻に唇を落とす。
「お風呂、入る?」
「……ん」
聖護の腕の中、しがみついたまま頷くとその腕がきゅっと締まった。
「……一緒に?」
ぴったりと貼り付いた聖護の胸から聞こえてくるのは早鐘を打つ音。
聖護が努めて穏やかな空気を作り出してくれているのだと知ると、冷めてしまった熱が残っているようなその音に再び身体がさざめく。
このまま一緒に入ったらどうなるかなんて考えなくてもわかる。
そして直に触れ合う怖さ以上に、この先に触れ合える充足感があると知ってしまった今となっては、なにもかも手放せないのも、せっかく聖護が用意してくれた逃げ道を放棄するのも結局は自分なのだ。
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