おやすみ、世界

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…………くん …………りくんっ どこからか名前を呼ばれた気がして意識を集めれば、目の前によく知る顔があった。 「あ……俺、寝てた」 「寝てた。めっちゃ可愛い顔して」 可愛いは余計だと頭をしばこうとして、ふと体の一部に違和感を感じた。 「おまっ!?アホかっ、こんなとこでっ」 二人の体の間、指を絡めて握られていた手にぎょっとする。 「いいやん。だーれも見てへんて」 悪びれる様子もなく、握った手を離すどころか更に固く握ってくる聖護に冷や汗をかき、慌てて周りを見渡した。 確かに誰一人として俺たちのことなんて気にもしていないのだけれど。 「もうすぐ着くし、もうちょっとだけアカン?な?」 わがままと甘えと、そしてどこか強引な仕草に抗議の声はぐっと引っ込んでいく。 そして不承不承と言う感じで折れたのは紛れもなく俺だった。
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