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全身を洗い終わり、湯船の縁に立ったけれど聖護との距離をとりあぐね、足元をペタペタと鳴らしながら彷徨いた。
「菫梨くん考えすぎ」
プッ、と吹き出して笑いながら聖護が振り向き見上げてくる。
「ちょっ、見んなって……」
「おいで」
「……っ」
冷めたように見えた熱は聖護にも残っていたらしく、眇められた目にドキッとする。
いつまでもこの状況でいることの方が恥ずかしく、猛然と開き直った俺は聖護の隣に足を浸け入れた。
無言で腰を下ろすものの、微妙に取り戻し始めた空気に黙り込んでしまい、横目にちらりと見やれば聖護は静かに微笑んで眼前に広がる山々の景色に視線をやっていた。
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