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「後悔したないから」
「こうか……い?」
べつに物珍しくもないその言葉に思いがけず衝撃を喰らわされ、曖昧に笑う聖護の笑顔がそれに拍車をかけた。
「いつか菫梨くんと友達に戻らなあかんようになる日が来ても“伝えとけばよかった”とか思いたないから」
「なん……それ」
濡れた髪を鋤いてくる聖護の手。
その色めきとは相対する聖護の真意を図りかねる。
「わからんやん、色々」
こっちは頭の中をいろんな言葉が乱れ飛んでいると言うのに、聖護はそんな簡単な答えで片付けようとする。
けれど、ずっと一緒にいた時間がここで活かされたのか、その短い言葉の裏にあるものが簡単に見えてしまい、途端に込み上げてくるのは寂しさでも悲しさでもなく、腹立たしさでしかなかった。
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