第1章

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「お姉さん、まだバイト終わんないの?」 偶然通りかかった風を装って、僕は階段に腰掛けている彼女に声を掛けた。 相手はびくりと肩を震わせて振り向く。 「セディだったのね」 こちらを見返す青の瞳に失望が滲んだ。 「普段ならもう上がる頃だよね?」 顔に間抜けな笑いを貼り付けたまま僕は再び問う。 「お姉ちゃんもジョニーも今日はまだみたい」 彼女は白い息を吐くと両手に抱えた物を胸に抱きしめ直した。 ピンクのハート型の箱に真っ赤なリボンを結んだプレゼント、か。 ベタ過ぎる。 いかにも「本命チョコです」ってラッピングじゃないか。 「二人とも?」 僕は大げさに二本指を立ててみせた。 君が待ってるのは本当は一人だろう? 彼女はまた白い息を吐き出すと頷く。 「ええ」 ハートを抱える小さな手がいっそう強く握り締められた。 僕の中でギュッと心臓を締め付けられるような熱い痛みが走る。 「この寒いのに大変だね」(了)
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