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第1章 高校二日目・1回目そして2回目
1
その晩、三歩一(みほいち) 歩は、自室で女の尻に敷かれていた。
尻に敷かれていた、というのは比喩ではなく、物理的な事実である。停電が生み出した暗闇の中で、自分の上にどっかり乗っている何物かが女だと推測できたのは、股間に何も着いていないからだ。
「もご! ふぐうぅ!」
口と鼻の両方が女の股間にふさがれているため呼吸ができず、苦しさと恐怖に歩はもがいた。顔面騎乗は、男子向けのエッチな漫画でよく見る態勢だが、実際に乗られてみるとラッキースケベと喜ぶどころではない。そもそも上にいるのは突然どこからともなく現れた謎の人物だ。
「む~~~~~!」
両腕がその謎の女の脚に抑え込まれてしまっているため、歩の手は酸素を求めて空中をかきむしる。そのとき、嵐が荒れ狂う外で稲光が閃いて、ほんの一瞬、謎の女の姿を青白く浮かび上がらせた。
歩の顔の上に涼しい顔で座っているのは、見知らぬ美少女だった。
ほぼ真下から見上げたうえに一瞬のことだったが、その美しさを見て取るには十分だった。
(だ、だ、誰???)
声にならない歩の叫びにもちろん答えはない。
光の後を追いかけて、すさまじい雷鳴がとどろく。
再び視界が暗闇に閉ざされた中、これ以上なく混乱する歩の耳に凛とした声がひびいた。謎の少女が発した、謎の言葉だ。
「お前は、何をやりなおしたいんだ」
やり、なおしたい?
息ができず、朦朧としてきた頭で考えた。
やりなおしたいことなんて、一つしかない。
窒息死しかけているのだろうか、歩の目の前を走馬灯が駆けめぐる。走馬灯と言ってもこれは「初めて歩いた日」などにはさかのぼらず、今日起きたことから始まった。やりなおしたいことと言われて今の歩に思い当たるのは、今日の悪夢しかない。
今日、歩は、高校入学二日目にして、クラス全員の前でウンコをもらしたのだから。
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