第1章 高校二日目・1回目そして2回目

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その悲劇は入学二日目の今日、本格的な授業が始まる前、ロングホームルームで順番に自己紹介をしていたときに起きた。ほとんどの生徒が出身中学と名前、趣味や特技、入る予定の部活を列挙し「よろしくお願いします」で締めると言う、何のひねりもない自己紹介をして適当な拍手を受けていた。軽く笑いを取る道化者がいたり、男子が落ち着きをなくす外見の女子がいたり女子が落ち着きをなくす外見の男子がいたりと、目立ったのはほんの数人。 「三歩一」である歩は、五十音で自分の番がくるまでの時間を活用して脳内リハーサルに余念がなかった。この日のために、自己紹介を完璧に準備してきたのだ。自分の声を録音して何度も聞き、納得いくまで練習を重ねてきた。文言だけでなく鏡の前に立って身振り手振りまで考慮した。 ウィットとユーモアに富んだ、コイツできるなと思わせる意識の高い自己紹介で突出した第一印象を残し、クラス内での地位固めをするのだ。髪を染めたりピアス穴を開けたりといった派手なまねはできないが、自分にできる限りの高校デビューを遂げたい。 そして、今自分の前の席に座っている花宮茉依と、あわよくば仲良くなりたいと。 歩は中学時代、文字通り「空気」だった。いわゆる透明な存在というやつで、個性も存在感も薄すぎ、いじめの対象にもならなかった。昭和の時代なら眼鏡をかけているからという理由で、何の工夫もなく「メガネ」と呼ばれメガネキャラが定着したかもしれないが、今どき眼鏡は個性になるほど珍しいものではない。 自分が目立たず、誰とも打ち解けられず(そもそも存在を認識されない)、ひいては友達がいない理由について、歩本人は外見が悪いということにしていたが、実際のところ問題があるのは外見ではなかった。「特徴がない」以上、容姿が際立って醜いはずはないのだから当然だ。
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