第1章 高校二日目・1回目そして2回目

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これまでの短い人生、歩はずっと周りの人々のモブとして生きていたようなものだ。漫画やアニメで、鼻と口だけで目がなかったり、酷いときは顔のパーツが全てなかったり、主人公や主要登場人物の背景として物語を支えるモブ。 担任にすら存在を忘れられ、歩を置いてバスが出発してしまい、サービスエリアに取り残されてしまった修学旅行。 ヤケクソかつダメもとで中学三年間同じクラスだった女子に告白をするという暴挙に打って出るも玉砕、断りの言葉を聞いているとどうも相手は自分を「下級生」だと思って話していると分かった卒業式。 ろくな思い出がなかった。 だから、同じ中学出身者が誰もいない高校で、生まれ変わった新しい自分になりたかった。ふざけあえる友達がいて、女子とも気負いなく自然に話せて、教師からも一目おかれて、クラスのヒエラルキーの中で少なくとも中の上に属する、そんな人物になりたかった。 そして、中学三年間抱き続けた「高校デビュー」という願いに、一条の希望の光が差す一大事が、合格発表の日に起きたのだ。 その日歩は、発表を見に来た受験生でごったがえす掲示板に近寄れず、人垣のいちばん外側でぴょんぴょんとむなしく跳ねていた。周りは既に結果を知った生徒やその親であふれ、悲喜こもごもで大いににぎわっている。 「みっ、見え、ない」 再度、とまた跳ねようとしたところに、前にいた男子が「やったー受かった!」と叫びつつ頭をのけぞらせてきた。危ない、と思って避けたらバランスを崩し、さらに後ろから別の誰かにぶつかられ転びそうになり、ぐっとこらえたところで眼鏡がぽーんと飛び出し地面に落下した。 「わ、めっ、めがねめがね」 ぐしゃぱき。
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