風牙とユキとバレンタイン

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「そこでカラス様がサッとトンビの前に立ちはだかったんですの。そして襲われそうだったわたくしを引き寄せて……」 「リア充の馴れ初めなんて不快以外の何物でもないけど……いつか私もリア充になるんだから!」 「あははー、ウタコ頑張ってー」 部屋の床にはビールやチューハイの空き缶があちこちに転がっていて、風牙が「しょうがねぇだな」とイタチ姿のまま空き缶を集めている。 子供の姿のまま成長しないボクは、外に飲みに行く事が出来ない。 だからたまにこうしてウタコや友達の妖を部屋に呼んでは飲み会をしているのだ。 「風牙ー、チータラの袋が開かないー。開けてー」 酔っ払いすぎて力が入らないのか、おつまみの袋が開けられない。 未開封のまま風牙に手渡すと、風牙は「オラの鎌は袋を開ける為にあるでねぇだよ」と呆れたように呟き、前足の鎌でサッと袋の端を切って開けてくれた。 「聞いてますの? それでカラス様が……」 「ハイハイ、聞いてるー」 チューハイ1本で泥酔してしまった鮎子は、さっきからカラスとの馴れ初め話を何度も繰り返している。 魚の妖怪だから、お酒には弱いのか? 「自分の幸せは自分で掴み取る……今度あのイケメン店員に話し掛けてみようかしら……。あぁ、でもそんな勇気出ない……」 ウタコはウタコで恋する乙女のようにモジモジしていた。 ウタコもさ、他人の幸せを妬んでない時は普通だと思うんだよ。 ちょっとネガティブなくらいで。 .
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