3912人が本棚に入れています
本棚に追加
「・・・・あった」
鞄の中を探って、記憶を辿りながら無理矢理渡された名刺の存在を思い出していた。
確か、ここにと財布の中にはなく、さすがに化粧ポーチには入れないしと、一つのケースに手をかけた時だった。
「凜、まだタバコ吸ってるんだー」
「え、あぁ。うん」
「それより、それ何ー?」
鞄から取り出されたタバコケースの背にある僅かな収納スペースにその紙切れは入っていた。
無理矢理渡されたのを鞄に仕舞う際、どうしていいか分からなくて咄嗟に入れたのが此処だったのだろう。
「名刺?」
怜がワクワクしたような目で覗き込んでくる。
私の手に持たれた名刺には“宮瀬 透”の文字と、携帯番号と社名。
そして、興味なく怜に見せると、さっきまで煩く喋っていた怜がピタッと声を出すのを止めた。
「ねぇ、コレ・・・」
「え?なんて読むの?私英語むり」
「馬鹿!!インペリアルホテル!!あの駅前の大きい高級ホテルよ!」
名刺にはImperial Hotle の文字が印刷されていた。
駅前にある高層のホテルは知っていた。もちろん行ったことはない。
短大の卒業パーティで使ったホテルの会場もそこそこだったが、そんなことで使われるようなホテルではない筈だ。
少なくとも私のような庶民OLが足を踏み入れてはいけない場所であることは確かだった。
「馬鹿ー!!あんたこの名刺渡されたときちゃんと見た!?」
「いや、要らないっていっちゃったし」
「・・・」
「本当に印象悪かったんだってー」
「これ、見えてる?」
怜があからさまに冷たい視線を向けている中、必死に弁解した。
確かに、高級ホテルで働いてるホテルマンであの容姿なら女はほおっておかないだろう。
怜の問いかけを無視して紡いだ言葉に、半ば怒った様に怜が声を荒げた。
「怜って、ホテルマン好きだったの?紹介しよっか?bar行ってれば会えるかもしれないし」
「・・・あんたね、ここよく見なさいよ!!」
「ん、代表?」
「代表取締役。意味わかる?」
“宮瀬 透” の名前の左横には、役職名。
“代表取締役 宮瀬 透” と書いてあった。
最初のコメントを投稿しよう!