3910人が本棚に入れています
本棚に追加
「気を付けてお帰りください」
マスターの声を背にbarを後にした。
まだ店には数組客が残っていたが、時間もいい時間になり先ほどまで戦ってた眠気もぶり返しそうな予感がしたため宮瀬が来て2時間程で会計を済ませた。
そしてまたタクシーを拾う為に大きな通りまで二人で歩く。
「そういえば、何で私がbarに居るって分かったんですか?」
「んー、なんでだと思う?」
ふと思った質問に返り討ちに合った。
思い返してみたら宮瀬は私の自宅を知らない筈。
それに、携帯に連絡があった形跡もなかった。
「変な機械付けてたりしないですよね・・」
「そんな手の込んだことしないよ」
「怪しい」
「ま、GPSとか付けて監視する位なら、部屋に軟禁してしまった方が早い」
「それは洒落ですよね?ぞわっとしました今・・」
本気とも取れる宮瀬の言葉に身震いすると、それにさえも曖昧に答える。
薄暗い小道は革靴とヒールの足音が静かに鳴り、薄寒い風が首筋を撫でた。
「今日俺がbarに行ったのは偶々だよ」
「一人で飲もうとしたんですか?」
「あぁ、でももしかしたら凜が居るかもしれないっていう期待もあった」
「あのbarで会ったのは全部金曜日でしたもんね」
そう遠くない記憶を懐かしむ様に話すと自然に笑いが漏れた。
マスターの声と、意味深なカクテル、そして宮瀬との駆け引きで溢れていたここ最近の金曜日。
綺麗な思い出かと聞かれれば少し悩んだが、悪くはない思い出であることは確かだった。
「出張お疲れさまでした。眠たいですよね?」
「少しな。時差ボケしてるのもあるが」
「早く帰って寝て下さい」
「つれないねー、勿論横で寝てくれるんだろ?」
「え、私帰る気満々でしたけど」
なんの悪気なしに発せられた言葉は深夜の道によく響いた。
その言葉に宮瀬が歩くのを止める。
急に歩幅を合わせて歩いていた宮瀬が視界横から消えたのを感じて振り向いた。
「お前の友達といい、本当想像絶するよ」
「はい?」
「オーバーワークで帰ってきたってゆうのに、家に帰るは無いだろ」
「だって、着替えも持ってきてないですし・・」
そこまで言うと宮瀬は止めた足をまた動かして私の手を取った。
「取りに帰ればいい、今日は否応にも横で寝てもらう。」
最初のコメントを投稿しよう!