Alexander's Sister - デリケート -

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「ちょっと!宮瀬さん」 手を引かれて歩き出したところまではまだよかった。 怒ってると言うより呆れ半分の宮瀬の歩幅は、いつも合わせてくれている歩幅より遥かに大きい。 小走りになりながらも掴まれた手のせいで、そのスピードを変えられないまま宮瀬の背を追った。 「それと、それ戻して」 「それって・・?」 「名前、凄い他人行儀に聞こえる」 「すみません、人前だと気恥ずかしくて」 落ちたスピードに息を切らすと俯いた私を見るために宮瀬が振り返る。 そして掴んでいた手を徐に引き上げると、その指に唇を押し当てた。 一連の行動に驚いて固まる私を無視して宮瀬の伏目がちな目が睫毛を揺らして開かれる。 「今からでいいから」 「わかりました・・」 「帰るよ、凜」 迷子になった子供に言い聞かせる様に、命令に似たその言葉の選択肢は一つだけ。 口づけられた自分の掌は薄暗い街灯の下でも、ほんのり赤くなってるのが分かった。 そして、また戻された歩幅で今度は肩を並べて歩き始める。 宮瀬の大きな掌に覆いつくされた私の手は凄く小さい。 「透さん、明日はお休みですか?」 「んー午前中だけ仕事だけど午後は時間を空けた」 「そうですか」 海外に出張し、帰ってきてすぐ翌日から仕事のある宮瀬が怖くなった。 大丈夫だろうかという心配も確かにあったが、容赦しない仕事量の方が無性に不安を掻き立てる。 宮瀬は今回の海外出張をオーバーワークと言った。 だが、それはそれだけに限った事じゃないのだろうか。 「ごめんな、時間あまり空けれなくて」 「そんなに女々しい女じゃないですよ私」 「しかし・・」 「それに、無理して倒れたりなんかしたら私、嫌いになっちゃうかも」 だから、気にしないで。 だから、無理しないで。 だから、自身をもっと見てあげて。 思った全部は口に出せば割と重たい事ばかり。 その代わりに敢えて選んだ言葉は、宮瀬にとっては十分な効き目だろう。 分かっててそれを発した私の顔は意地悪く笑っていた。 「それは困るな」 「そうならなきゃいいだけの話ですよ」 一枚上手なのはお互い様。 私が宮瀬に勝てない分、宮瀬も私に勝てない部分はそれなりに存在する。 それを利用し合う会話は止まることなく、やがて大きな通りに出た。
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