3910人が本棚に入れています
本棚に追加
もう見慣れてしまったマンションを見上げもせずにエントランスを抜ける。
そしてエレベーターに乗り込むと、ふわっと内臓が浮く感覚にお決まり通り壁に手を付いた。
「お邪魔します」
「ただいまって言っていいんだぞ?」
「他人の家にですか・・」
他人行儀をほどほど嫌う宮瀬に正論で返すと、気に食わなかったらしい“他人”という単語に少しムスッとした。
それが妙に面白くて笑って見せると頬を軽くつねり、玄関を跨いだ。
「荷物はどうしたんですか?」
「一度帰ったからそこにある、荷解きはまだだが」
「洗濯物とかは・・」
「殆どがスーツだったからさほどないよ」
今日を含めて4日前に見た出張用の荷物。
何か増えたり減ったりした様子のないそれが同じ様にリビングに置いてあった。
大して気にもしてなかったが、上着を脱いで持ってきたお泊り用の荷物をその横に置いた。
「さてと、」
「うわぁ!!」
「なんて声出すんだよ・・」
屈んで荷物を置き、取りあえず着替えはお風呂に入るときに出そうと思い腰を上げると、宮瀬の声と一緒に自分の身体が真後ろに倒れ込んだ。
高い所から落ちる様な感覚に吃驚した私は、耳に響くレベルの声を上げ目を大きく見開いた。
その声にクスクス笑う宮瀬の顔は丁度真上に見える。
倒れ込んだ衝撃は殆どなかったが、抱えられながらソファーに腰掛けたと理解するには数秒の間があった。
「いきなり引っ張らないでくださいよ!!」
「どれだけ我慢してたと思ってんだよ」
「知りません!」
「丸4日触れなかったんだ、充電させろ」
「放電式なんですね・・」
宮瀬の大きな体に埋まってしまう小さな自分が悔しい。
膝を曲げて、強く抱かれる体は宮瀬の匂いに全てが包まれた。
そして充電だと言う宮瀬は何も話さず、やや暫くその力を緩めることはなかった。
「はぁ、疲れた・・落ち着く」
「お疲れさまです」
頭の上から聞こえた珍しい弱気な声とゆっくりと流れるトーン。
手を伸ばし宮瀬の頭を撫でると、宮瀬が自分の頭をよく撫でる意味が分かった様な気がした。
整髪料で少し固められた髪の毛は指がすんなり通る柔らかさは無かったが、ずっと触っていたいと思える程には焼きが回っていたらしい。
最初のコメントを投稿しよう!