Cocktail

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「遅ばせながら、私からの最後のカクテルになります」 同じグラスに、同じ色、そして同じ香り。 全部が同じのカクテルが私達2人の前に流し込まれた。 「お二人にはエル・プレジデント、意味は“プライド”になります」 また聞いたことのない名前に、そのあと続けられたカクテル言葉。 三杯目にしてようやく理解したマスターの思惑にまんまとやられたと目元を手で覆った。 「そうゆうことか」 「先にお出ししたカクテルにもちゃんと意味を持たせてましたよ」 「それは教えてくれるのか?」 「えぇ、是非とも」 三杯目のカクテルはそのみずみずしい色とは対照的にかなりの辛口。 ドライな口当たりがアルコールの強さをより感じさせた。 「凜さんのは少し甘めに作ってありますが、辛口過ぎますかね?」 「いえ、辛口も好きですよ」 「そうですか、もう少し辛くても良かったですかね」 呑んだことはないが、ラムの香りがする中にオレンジの甘味がちゃんとある。 ドライなのは変わりないが、これ以上辛口にされると飲み干す自信が無かった。 きっと宮瀬の方はもっと辛口に作られているのだろう。 「このお酒は、プライドという言葉を持つ上で、人の頂点に立つ者という意味合いも込められてます」 「それって・・」 「えぇ、まんま宮瀬様その物ですね」 人の上に立つ、トップに君臨する物はドライでなければならない。 意味を聞いてその辛さに納得すると宮瀬は薄く笑いながらそのカクテルを煽っていた。 「ちなみに、凜さんに出したカクテルは」 「キールは“最高の巡り逢い”だっけ?」 「えぇ、二杯目のカカオフィズは“恋する胸の痛み”という言葉が当てられています」 辛口のカクテルを少しづつ飲み干し、口に付くドライさもようやく慣れて来た。 大人な味のするそれは私の酔いを助長するかのように体に回る。 「宮瀬様は、アイオープナーが“運命の出会い”」 「ふぅん」 「そして二杯目のウォッカギブソンには“隠せない気持ち”という意味があります」 「なるほどな、俺達の経緯の中にある感情をカクテルに当てたのか」 最高の巡り逢いから恋する胸の痛みを知った私と、運命の出会いを経て隠せない気持ちをぶつけ続けた宮瀬。 お互いに素直になりつつ、そのプライドは未だに消えていない。 マスターは得意げな表情を見せて、俯きながら口角を上げた。 「私の目に狂いはないでしょう?」
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