Cocktail

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「敵わないな」 「ですね」 クスクス笑う私達はその言葉意味通りの感情の変化を否定することができない。 なんでもお見通しなマスターの笑みはどことなく全てを見透かしていた。 プライドなんて邪魔なだけなのに捨てることのできない私たちはとても似ている。 似ているからこそぶつかって、お互いの本心を分かっているのに試し合って。 「不器用なんですよお二人とも」 言われた言葉そのままその手を掴んだり離したりして今がある。 私や宮瀬より何十年も長く生きて来たマスターの目から見ればお遊戯会のようなやり取りはさぞ滑稽だっただろう。 「不器用なのは私じゃないです」 「どう考えても凜の方だろ」 「強引なんですよ透さんは」 「凜は強情だな」 売り言葉に買い言葉を繰り返せば、カウンターの奥でマスターが笑う。 最初と同じ三人のやり取りはそう遠くない記憶とブレる事無く重なって懐かしくなった。 「まぁまぁ、お二人とも、私のお酒にお付き合い頂いてありがとうございました」 両手を広げて宥めるマスターはいつも同じ立ち位置だ。 私の右に宮瀬が居て、その真ん中になる場所にカウンターを挟んでマスターが立っている。 此処から始まった全ては、此処を中間地点にして、此処で全て纏まる。 「今日の寝起きも泣いてたのは凜だぞ」 「そ、それは・・怖い夢見たから」 「二人きりの時は素直なんだけどな」 「透さんこそ、二人きりの方が・・もう少し」 言葉では勝てないのはお互いに同じ。 私の言葉に翻弄する宮瀬は、私をその言葉で翻弄させる。 「もう少しなんだ?」 「・・・もういいです」 「ん?」 「言わなくたって分かってるじゃないですか」 顔を近づけられれば私の顔が赤くなる事を宮瀬は知っている。 キスをする時、自分から口を開けない事も、手を握られれば無自覚にその手を握り返してしまう事も全部知っている。 「おやおや、グラスが空いてしまいましたね」 言わなくたって分かってる。 でも言ってくれないと不安になってしまうから。 開いたグラスをマスターが片づけるのを横目に、宮瀬が次の注文を口にした。 次からはマスターのチョイスではなく私達の好きな物を頼めばいい。
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