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「宮瀬様・・・」
マスターが困ったように諭す。
その言葉を無視するかの様に、宮瀬という男はこちらを見て口を開いた。
「お前、それマルゲリータだろ」
いまだにクツクツ笑うその男は、苦しそうな呼吸の中絞り出すような声でそう言った。
それを聞いたマスターは深いため息をついて困った顔のままだ。
「あ、そうでしたね!名前似てるし初めて聞いたから・・・」
「確かにな、25の女には馴染みも飲む機会も少ないか」
聞こえた言葉は間違っていない、そう確証があったからこそ少しだけ、イラッとした。
言葉そのまま、他の感情は存在しない。
宮瀬は初めて会った私に、“25の女”と言ったのだ。
「宮瀬様・・・凜さんとは初対面でしょう?」
「そうだが?」
「そのような言い方は癪に障られますよ」
「そうなのか?」
その質問は私に向いていた。
マスターの言った事に肯定したいのは山々だったが「はい。癪に障りました、まさに」なんて言えない。
私にとっても宮瀬にとっても互いが初対面であり、この人はマスターにとって大事な“客”でもあったからだ。
「おい、聞いているんだが」
「あ、いえ。癪には障ってないです」
「癪には?」
「え、っと。その、」
明らかに自分より年上の宮瀬を前にどもってしまい、マスターに助けを求めてみても、はっきり言ってあげてくださいみたいな顔をしていてなんの解決にもならなかった。
そして、それを察したかのようにそのままの言葉が投げかけられる。
「なんだ、はっきり言え」
「癪には障りませんが、印象は悪かったです!」
今度は、マスターがカウンターの奥でブフッと遠慮がちに笑った。
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