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T大の宇宙物理学者、松山教授とそのチームスタッフは、マスコミ各社の記者から厳しい質問を投げ掛けられていた。 「失敗の原因は何処にありましたか?」 「最終的な承認は、松山教授が行ったのでしょうか?」 「十八兆円が無駄となりましたが、国民に伝えたいことがありますか?」 そんな会見をチームスタッフの一人、佐山ミライは歯がゆい思いで見守っていた。 遡ること八年前、火星移住計画が全世界的に注目され、アメリカ、ロシア、中国がリーダーとなり、日本はそのサポートとしてプロジェクトに加わった。 当時の総理大臣、岡部は株安と円高の市場に経済政策の足もとを救われて、支持率を大きく下げていた。 何をしても景気は良くならない。 多くの官僚たちもまたその認識を心に秘めながら、綱渡りの景気対策に翻弄していた。 「どう責任を取るとつもりですか?」 松山教授へとバッシングは、ある意味、行き場のない怒りの矛先になっていた。 マスコミ記者も会見ではそんな事を口にするが、全世界的な景気の鈍化を少なくとも国民以上に感じていた。 「ここでmarsと通信が出来そうです」 会見の進行をチームスタッフの一人、多田研究員がマイクで伝えた。 するとカメラが一斉にスクリーンへとパーンし、多田が「mars、聞こえますか? 答えてください!」と叫んだ。 会場にいた誰もが、もうmarsは失敗したのだと思うほか無かった。 「mars、mars!」 「こちらmars、聞こえます!」 乱れながらも映し出された火星からの映像に歓喜と失意が同時に起きた。 伸びたヒゲヅラの男は、本郷ジロウで、多田研究員のフィアンセでもあった。 それだけに多田研究員は映像に映し出された本郷を見て、込み上げてくる涙をそっと拭っていた。 「現状を教えて下さい!」 「生存者は四名。アメリカ、ロシア、中国、日本、各一名です」 「食料はどれ位ありますか?」 「……、スイマセン、聞き取れ……」 会場に失意が漏れ渡った。 「今、何か我々に伝えたいことがありますか?」 マスコミを代表して、男が呼び掛けた。 「我々に悔いはありません。どうかお元気で!」 最後まで誠実な研究員として全うする姿勢に、カメラマンさえも涙を流した。 「スイマセン!」 佐山ミライが手を挙げ、司会を無視して呼び掛けた。 「天候は如何ですか?」 会場にいた誰もが、ミライに呆れ返った。
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