Virus

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数年前から国内各地で、原因不明の病が流行していた。 T大医学部の中教授が、その現状をマスコミを通じて発表した。 抗体が作られるのは三十代前後までで、これ以降になると発症を抑制出来ても完治は難しい。 事実、マスコミは姨捨ウイルスと命名していた。 既に七十代以降の老人では、感染者を含めて約七百名が命を落としていた。 特に元岡部総理の参謀だった河東が死去した事は記憶に新しい。 「なんで、いまさら稲作なの?」 多田ミエは、松山教授が自決した事を今でも心痛めていた。 「姨捨ウイルス、マスコミが騒いでいるだろう?」 「でもそれとこれとどう関係するわけ?」 佐山ミライが大学を去ったのは、あの会見で見せた暴挙の翌日だった。 「死ぬことなかったよな?」 「松山先生の話?」 ミライは素足で田んぼから出て来た。 「本郷の事はもう吹っ切れた?」 「生きていてくれたら良いなと思っているわ」 「なぁ、なんで本郷だけが日本で選ばれたか考えたことある?」 ミライの唐突な質問に、多田は返答に詰まった。 「やっぱり何か知っているのね?」 「知っていると言えば知っている。でもそれを聞いても無駄だよ。だから知らないまま生きていく方が幸せかもしれない。そういう事ってあるだろう?」 「つまり、火星移住なんて最初から……」 「流石に頭が良いね。まぁ、簡単に言えばそう言うことさ。ところで、医局に居るんだって?」 「そうよ。その姨捨ウイルスの抗体を研究しているのよ」 ミライはあぜ道に大の字になった。 「キミは本当に頭が良いんだね。いい科学者だよ」 「佐山くんも戻ってきたら? T大の研究室に空きが出そうなのよ」 「まさか、それを教えにこんな所まで?」 東京から車で三時間、暇ではないはずの多田がわざわざ運転した事にミライは感謝した。 「あの時、本郷はよく腫れていると言ってたの覚えている?」 「佐山くんが質問した時ね。何か意味があるの?」 「あれは俺たちのサインなんだ」 「どういうこと?」 「アハハハ。T大には戻る気はないよ」 ミライがまた田んぼに入って行った。 「佐山くん!」
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