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marsから帰還するとの連絡が届いたのは、あの会見から三十年の月日を必要としていた。
幸いにして佐山ミライはまだ稲作を作っていたし、多田も研究室を辞めて孫の面倒を見て暮らしていた。
「帰還するのは怖くもありました!」
本郷とアメリカ人のパイロットが世界中から集まったカメラの前で言葉を発した。
もう三十年と言う月日が経過し、火星移住が完了した今となっては、移住計画の本当の目的も隠す必要が薄れた。
「もう余生を地球で過ごしたいと思います」
白髪となった本郷は、忘れかけた日本語を思い出しながらそう締めくくった。
この地球でも、古くなり廃れて行くべきモノが長く残り続けていた時代がある。
火星移住は、全世界的規模で遂行された人類存続の禁じ手であった。
一つには姨捨ウイルスの抗体もとうに出来ていたとする評論家も少数ながら存在していた。
今となってはどうでもいい事だか、異常気象や局地的に発生する病原体はコンピュータによる解析結果とも言われている。
老いた者は、己が進んだ歩みを尊ぶ。
やがてそれが、社会の減退を加速させて行く。
新しい朝、そこには真新しい生まれたてのモノが集まっている。
常に一度きりであり、ルーチン化することは無い。
コンピュータでも予見出来なくなってきたのは、社会が高速化し、常に生まれ変わり続けるからだ。
もしも姨捨ウイルスが流行する事がなければ、こんな朝を迎える事も出来なかった。
未だに、古くさいしきたりや習わしに縛られて、大量の薬を息絶えるまで飲み続けるしかなかっただろう。
医学を生かす為の社会が、薬から抜けられるはずもなく、高齢化した社会が莫大な年金と医療費を背負い続けるしかないのは似たようなものだ。
今、十八歳で国政に参加する政治家の多くが、本職を持っている。
政治資金は一切支給されていない。
それ故に癒着や賄賂も無縁となった。
何かに秀でただけでは、発議する事も難しくなる。
それは、高度に進化したコンピュータが担い、多様な価値観と先を見渡せる見識が求められた。
長たらしく古くさい経験値ではなく、真新しい発想が全てだ。
ついて行けなければ、議会から足を洗う。
不思議な物で、評論家やコメンテーターと言う職はなくなり、そんな彼らの多くが教育者となった。
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