プロローグ

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序章    その必要なんてないのに、あなたがあたしをそこに連れてきた理由はもう分かってる。 いつも強がってばっかりいるけど、じつは見栄っ張りなあなたのことだろうから、全部見てもらわなければ気が済まなかったんだろう。      いまあたしの目の前には、大人の男の人が磔にされたように、宙に浮いている。ううん、そんな感じに見えているだけ。腕に巻き付けられた、あちこちから伸びる縄がその人を宙に浮くよう支えているの。足だけがだらしなくだらんと下がった状態。      あなたがこれをやったの。しっかり計画を立て、その人を殺した上で、縄で吊したの。      あたしに打ち明けたとおりに、全部できちゃったんだね。あなたがやってみせるって言ったとおりになった。それってすごい。      でも、あたしはあなたにその計画を実行してもらいたくなんてなかった。だって、あなたがそれをやることであとから苦しめられるだなんてことになってほしくないもの。でも、こうなっちゃった以上、どうしようもないよね。いまのあたしにできることは、あなたの苦しみがそう大きくならないことを祈りつづけるだけ。心がいつまでも平安でありますように。アーメン……。      あたしはあらためて磔にされた男の人を見あげる。もっとおびえてもいい光景なのかもしれなかったけれど、でもそんな風でもない。これというのも、天井の中央にくりぬかれた丸い穴からステンドグラスを透かした七色の光がきれいに射し込んでいるから。そのステンドグラスは、いくつもの挿話を一枚の絵で物語った神秘的なもの。たくさんの人と動物、そして自然が描き出されたそれらは今、お日様の力を借りることで、この上なくうるわしく光り輝いている。  
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