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そうした光が、丸い穴からちょっとだけ下の位置にぶら下がっている男の人に降り注いでいるの。
一度その模様を見たら、なんだかずっと目が離れない。あたしがさっきからぼうっとしているのは理由なく惹かれる何かがあるから。
でも、あたしはこんな所にいたいわけじゃない。
できるものなら、あわてて飛び出していったあなたにもう一度引き返してもらって、それであたしを連れ出してほしい。一緒に逃げたいの。
でも、なんだかあなたったら、異常に興奮していたみたいだから、たぶんもうそれは叶わないことなのかもしれない。ううん、大丈夫。あなたのことを恨んだりなんてしないから。だって、あなたが勇気をみせてくれたように、あたしへの愛情がどれぐらいなのかってことは、ちゃんと分かってるんだから。今日みたいな大事な日にあたしのことを少しぐらい忘れたからって、それがなんだっていうのさ。
あたしたちの仲は、いつまでもずっといまのまま。あなたがいじわるして否定したって、そんなことはあたしが認めないんだから。
あたしが目をつぶって、幸福にひたっているその時、あたしの背中側にある正面玄関からがたがたと物音が聞こえてきた。普段は下りている横木を誰かが外しているみたい。あなたが帰ってきたの? ううん、そんな感じでもないみたい。まったく別の、あなたよりもずっと力のある、身体の大きな人……。
ゆっくりと二枚扉が開いてきたわ。
ここは天井がぼろぼろに剥がれて、屋根を構成している骨組みが見えてしまっているぐらいの、納屋みたいなまっくらな部屋だから外から射し込んでくる光がいっそうまばゆくて、あたしの目をつぶそうとしてくるぐらい。現れたその人は、影を帯びていて誰だかわからない。風景はすべて光につつまれてちゃっている。でも、あたしの姿にはすぐに気付いたみたい。そして、あなたがやったことのすべてを目の当たりにする。
その人はしばらく唖然としていたわね。
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