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第一章
第一章
落ち着いた茶色と白の客間にて、その男の人は膝を立てた前屈みになった姿勢で待っていた。私の来室を知るなり、揺すっていた足を止め、ほっこりと笑う。
「こないだの続きがどうしてもしたくってねえ、またお邪魔してしまいましたよ」
相も変わらず愛想良さそうな顔をする。とてもじゃないけれど、この人が定年間近の刑事だなんて思えないところがあった。
でもそんな見てくれに騙されてはいけない。私はきっと決意して心を閉じ、冷たく相対する。
「三十分だけですよ。それ以上は、困ります」
「三十分でけっこうですよ。こうして相手してくれるだけでありがたいですからねえ」
私は窓辺にて向かい合わせになった洋椅子に腰掛ける。古い洋館の調度品に相応しい、シックなスタイル。背もたれの傾斜が深いあたりに、偉い人向きのような風格を漂わせている。
私はこの洋館に雇われている使用人だったから、座面の半分より前にちょこんと遠慮して座った。
「いきなりで申し訳ないんですが、本題に入ってもよろしいでしょうか?」
と、透ヶ川刑事は打って変わって厳しい顔をして言う。私は、即刻うなずいた。
「どうぞ」
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