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では、と彼は少しだけ前のめりになって切り出しはじめた。
「やっぱりですね、取り壊しになるその前に、一度わたしらだけであそこを見にいきましょうよ。そうしないとダメですね。ほら、あなたにもいろいろ思い出がありますでしょうし……、一度取り壊されてしまったら、もう二度とその景色を見ることはできないんですよ」
「…………」
答えるべきことはない。
なぜなら、透ヶ川刑事が誘いかけているその場所は、私にとって忌まわしい、そんな恐怖が詰まったところなのだから。もしかしたら、足を踏み入れただけで、何かがフラッシュバックして気を失ってしまうのかもしれなかった。それぐらいの所だった。
ゆっくりと首を振った。
「どうして、そう拒否されるんでしょうかねえ?」
と、透ヶ川刑事は問いかけてくる。
私はやっぱり何も言わずにいたのだったが、これ以上そうしてもいられないと思い立った。
「いく理由がないからです。どうして私がそこに行かなければいけないというのでしょう? そんなに気になって仕方がないのでしたなら、刑事さんが一人で行けばいいじゃないですか」
「ですから、あなたが立ち合ってもらえるだけでわけがちがうんですよ。こういうのは一人で見に行くよりも、人がいた方がいいんです」
「立ち合うって、どういうことです? まるで誘導されているみたいじゃないですか?……不愉快です」
「そりゃ失礼いたしました。選択する言葉を誤ってしまったようで。ですが、さすがにこういうのは揚げ足取りじゃないでしょうかねえ?」
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