星は落ちている

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星は落ちている

 二月十四日の夜、星が落ちたような町中を一望できる展望台、高校生の女の子が一人、好きな人を待っている。  展望台に登る道は石造りの質素な石階段だが、中腹を越えると木造の階段になる。普段は安全の為に作られた手すりは地味な印象だが、今日のようにバレンタインとなると話は別で、石階段から木造の階段への変化が特別な日への境界を演出してくれる。それを登ると普段でも綺麗な風景であるが、特別な日はより綺麗に目に映る。例え、一人だったとしても。  高校生の女の子は、展望台に辿りつく最後の一段の階段で座っている。いつもは着ない目立つ色の赤い服を着ており、両手には淡いピンクで包装されたチョコが握られている。家で飼っている猫を模した小さな猫の鞄は、いつも通り腰にかけ、首には通学用のマフラーをしている。特別な日だからといって、全身を特別な日にするには限度がある。彼女はまだ高校生。花も恥じらうどころか、花と一緒に恥じらう年頃。お金も自信も無い。それでも可愛くありたい十七歳。  彼女の後ろで夜景を背景にして写真を撮ろうとしている男がいる。男を撮るのは女。大学生ぐらいの年頃で、今、写真を撮る瞬間だった。  
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