抱き枕の恋ごころ

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 それにしても高校を卒業して十年余り。今目の前にいる浩明と高校の時の浩明がなかなか結びつかない。いや、見た目は確かに浩明なのだが、酒の嗜み方にしてもそうだし、つきあったりする相手のことなど、知らないことだらけだ。  ただひとつ、浩明がそういう性的指向だというのだけは、ある事情があって当時から知っていた。むしろ当時は翔太郎しか、そのことを知らなかったのではないだろうか。  過去に思いをはせていると、ガシャンとフロアーでガラスが割れたような音がした。立ち上がろうとするママを制し、すぐに箒セットを持って駆けつける。 「ごめんなさい……ちょっとよろけちゃって」  駆けつけた先には童顔で小柄な男性が座り込んでいた。すまなそうにますます縮こまっている。  傍らにはいたずらを見つけられた時のような長身の男性が立っていたが、座っている男性に手を貸すでもなく、翔太郎が駆けつけると、さりげなくその場を離れていった。  翔太郎が手を伸ばすと、座っていた男性はおずおずと手を差し出した。 「お客様の方は、お怪我はありませんか?」 「あ、はい……大丈夫です」 「でも、お召し物が少し濡れてしまいましたね。シミになるといけませんから、明るいところでよく見せてください。さあ、こちらへどうぞ」  続いてやってきたボーイ見習いに目配せをして、割れたグラスの後始末を頼むと、翔太郎は男性をエスコートするようにバックヤード近くのカーテンで仕切られた一角に男性を案内した。
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