抱き枕の恋ごころ

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「相沢といいます。あ、りがとうございました。本当はちょっと……困っていたところで、助かりました」  傍らに立っていたのがおそらく揉めていた相手――少し前から、志島という男が入店していることはわかっていたのだ。  志島は会社経営者でお金は持っているのだが、その分自分にも自信があるのか、誘い方の手口に強引なところがある。  本人もその自覚があるのか、単なるケチなのかわからないが、ママの目が光るカウンターでゲストにアプローチをすることはあまりなく、フロアーでゲストに声をかけられないで躊躇しているような若干気弱な男性をターゲットにして、押しの一手で口説くのだ。 「あんなふうにぐいぐい来られたことなかったから、驚いちゃって」  そうはいっても志島は濃い顔立ちだが見た目もわりといいセレブなので、それなりに人気もある。お客様の中にはなかなか思い切りがつかないから、多少強引に求められた方がいいと思う方もいる。  だから志島が来店しているときは、誘われる相手がそれを良しとしているのか、そうではないのかを見極めるのは、主に翔太郎の役目だった。  相手が好ましく思っていない場合はそれとなく間に入ってフォローをしなければいけなかったのに、浩明との再会で気を取られていたとはいえ、周囲を注意することがおろそかになっていたことを反省する。
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